「ビングリッシュ」出版に当たって 著者からのメッセージ
今回、長年の夢であった「ビングリッシュ」の出版をようやく実現することができました。この教材は、私の中学・高校での長年の実践の中から生まれたもので、これまでの文法指導の常識を変えるものであると確信しています。
文法事項が複雑になってきて、いわゆる「英語嫌い」の生徒が増えてくるのは、中学2年あたりからだと言われています。確かに中学2年では、準動詞を筆頭に多くの文法事項が出てきて生徒はかなり混乱してきます。数年前、私自身が中2で助動詞を教えていた際も同様で、生徒は多くの助動詞の用法にかなり混乱していました。そんな時に作ったのが「助動詞ビンゴ」でした。16枚の紙に、助動詞を使ったセンテンスの場面を表すイラストを描き、裏面は模様にしました。そしてそれを机に並べさせて、毎時間センテンスを言いながらリピートするようにしてビンゴを続けたのです。すると不思議な事に生徒はこのゲームにはまりました。そしてゲーム感覚でこれを続けるうちに、生徒達は助動詞の使い方を体で覚えてしまったのです。
ここで私が考えたのは、例えば、「不定詞は中2」「関係代名詞や現在完了は中3」というのは、教師側の固定観念であって、子供の能力や吸収力はもっと柔軟なものではないか、ということです。つまり文法を意識せずに、自然な形で何度も英語を聞かせ続けていれば、そのうち自然に言えるようになる。文法的な知識を与えるのはそれから後でもいいのではないか、いや、そうすれば文法を学習する際に、「今からまったく新しいことを習う」という抵抗がなくなり、言わば生徒の中に「既にある英語」に対して、「文法という理屈」を与えるだけになる、ということに気づいたのです。
これは、私たちが掛け算の九九を覚えた際、理屈抜きで覚えたのに似ていますし、実際児童英語教室に行くと、中学生が習うような事項を含んだ英語を、5歳くらいの幼児が文法を意識せずに平気で話しています。生徒に何の素地もないところに、「文法」という理屈を高くふりかざし、教えていくことは、生徒にとって英語を必要以上に難しいものにしてしまうことになります。
以来、「助動詞ビンゴ」に始まったビンゴカードは、中学校で習うすべての文法事項が含まれた「中学ビンゴ」、更に高校で習うすべての文法事項が含まれた「高校ビンゴ」へと発展していきました。ボランティアの生徒がイラストを描いてくれたり、ネイティブの先生の協力を得て、音声のCDをつくったり、センテンスも何度も練り直して改良を重ねてきました。このカードを使うようになってから、私の授業の最初のウォーミングアップはこのビンゴで始まるのが当たり前になり、新しく習う文法の説明は、いつもカードのイラストが印刷されたプリントを使うようになりました。今まで聞いたこともない、参考書の「よそよそしい」例文でなく、「いつも聞いて話している英語」なので、生徒にとっては全く抵抗がなく、むしろ「あっ、この文、そういうことだったの!?」という風に、文法を学習することが「発見」や「喜び」につながるようになりました。
またビンゴゲームというのは本当に不思議なもので、何度やっても飽きずに続けられます。本来、例文の反復や暗記は単調でつまらないものですが、ここではビンゴという魔法がそれを楽しいものに変えてくれます。文法指導での悩みとしてよく聞くものとして、「教えた時はいいんだけど、次のことを教えている間にすぐ前に習ったことを忘れる」というものがありますが、このビンゴは、「習った・習っていない」に関係なく、どんどん英文を繰り返すので、言わば復習と予習を同時におこなえるという利点があります。学習の際に生徒がつまずいた時に、「ほらあの○○のカードを思い出してごらん」と言えば、本人も周りの生徒もすぐに思い出す事ができます。「1つの例文をクラス全員が共有している」というようなことは、これまでの参考書や問題集ではありえなかったことです。先にこの教材が掛け算の九九に似ているということを書きましたが、私達が掛け算の九九を絶対に忘れる事がないのは、それをその後もずっと繰り返し使っているからです。その点でもこのビンゴは掛け算の九九にとてもよく似ていて、私としてはこの教材が、将来「英語の九九」と言われるようになってほしいと願っています。
長々と書いてきましたが、この教材に対して私にこれだけ確信をもたせてくれたものは、何よりも実践であり、生徒達の生の声です。もう何年もこのビンゴを続けてきましたが、アンケートでは、生徒達の実に100%近くがこの教材のよさ・効果を認めてくれています。今後、この教材が多くの学校・教室で使われ、「英語嫌い」の生徒をつくらない、「楽しく、わかりやすい、ワクワクする」ような授業の一助になることを願っています。(2006年1月)
[謝辞]
この教材の誕生に当たって、これまでの実践を支えてくださった先生方、および生徒の皆さん、そして多くの示唆を与えてくださった、セルム児童英語研究会(代表:難波悦子先生)に対し、改めて感謝と敬意を表します。